「生体認証で生活をより便利に安全に」をミッションに、指紋や顔などの生体情報で本人であることを本人が証明する世界を目指しているLiquid。2013年に創業後、世界で初めて生体認証のみでの本人認証・決済サービスの商用化に成功し、2018年には33億円を調達。安全性が高く利便性の良いサービスを独自のアルゴリズムで開発している。そんな同社の創業メンバーとして開発を牽引しているのが、取締役CTOの大岩良行氏だ。大学時代から高速画像処理技術を研究し、いずれSFのような世界を作りたいと考えていた大岩氏は、それを実現させる場としてliquidを選んだ。同氏が描く未来とは何か。話を伺った。
画像処理×高速検索でSFの世界に近づきたい
—— 大岩さんは、liquidの創業メンバーの一人だと伺いました。liquidとの出会いのきっかけは何だったのでしょうか。
Liquidとの出会いは、サーバーサイドのプロフェッショナルである友人の会社に遊びに行ったとき、「同じマンションに画像処理技術でビジネスを始めようとしている人たちがいるから、覗いてみないか」と誘われたことがきっかけでした。
もともと、東京大学大学院では情報理工系研究科で高速画像処理を研究しており、いずれSFに出てくるような特徴的な技術で会社を興し、新しい世界を作れたら人生最高だなと思っていました。技術革新によってSFのような世界が少しずつ実現されている世の中で、どこかに自分も関与したいなと。
だから卒業後は、フリーランスとして機械学習や画像処理などの技術を使ったサービスを開発するスタートアップをいくつかお手伝いし、知人と高速レスポンス×機械学習の領域での起業もしました。そういった経験があったので、liquidがやろうとしている指紋の画像処理技術で人を高速検索・認証するサービスはテーマとして魅力的だったんです。
代表の久田から「まずは、指紋だけで人を認証して支払いができるサービスを作りたい」と言われ、ここなら自分の力を生かしてSFの世界を作れるかもしれないと思い、2014年の8月に4人目のメンバーとしてジョインしました。
偽造を見破り、なりすましを防ぐ認証の仕組み
—— 大学時代からの夢がliquidにつながったのですね。そこからサービス開発が始まった。
そうです。個人的には、映画「マイノリティ・リポート」のような、網膜認証システムで瞬時に人が認証されて、バスや電車に乗れたり支払いが済んだりする世界が面白いと思っていましたが、まずは指紋認証からスタート。アルゴリズムを開発して小規模な実証実験を行いました。
2016年にはSalim Group社との合弁会社INDOLIQUID設立に向けて、インドネシアで人のIDの基盤システムの開発に従事し、現在は日本で、顔認証を使った本人確認サービス「LIQUID eKYC」を開発しています。
今まで、銀行口座や証券口座を作成する際、本人確認のために金融機関の窓口に出向いたり、郵送して住所確認をしたりする必要がありました。しかし、2018 年 11 月に「犯罪収益移転防止法」が一部法改正されたことで、対面や郵送で行っていた本人確認がオンラインで完結できるようになったんですね。
そこで、画像処理技術と生体認証クラウドによる高精度の画像照合で、本人確認をスマホで完結する「LIQUID eKYC」を開発。偽造を見破る独自の顔認証システムを搭載しており、すでに数十社の金融機関に導入いただいています。
この話をすると「銀行口座作成時の話」と限定された印象を受けるかもしれませんが、スマホによる顔認証でUXを損ねることなく、偽造を見破り“なりすまし”が不可能な仕組みを実現できたら、あらゆる本人確認に使えるようになるんです。
たとえば、クレジットカードでの支払い時のサインも不要になりますし、顔認証で行政や病院、交通機関、金融、小売などあらゆるサービスが簡単に使えるようになる。わずらわしいID・パスワードを記憶する必要もなくなります。それが実現すると本当に快適な世界になると思うし、そういう世界を作れると思うとワクワクしますね。
暗号化された生体情報のプラットフォームを作る
—— 本人確認が必要なものすべてに使えるなら便利ですね。
便利ですし、**目指したい世界の一つである「犯罪抑止」**にもつながります。犯罪が起きるから面倒なルールが増えていくという側面があるので、それを簡単に抑止できたら世界は変わるはず。だから、スマホでの高い偽造検知技術を確立させて、プライバシーの保護と高いセキュリティの両方を実現させたいと思っています。
今の世の中は、個人情報保護やセキュリティは個々の企業努力によって成り立っていますが、企業努力なのでどうしてもカード情報流出などの事故が起きてしまいます。将来的には、高いセキュリティで個人情報を保護する暗号化された生体認証プラットフォームを、さまざまな企業や政府と一緒に、オープンに作って行く形にできるかもしれません。
—— 少しずつ思い描く未来、SFのような世界を実現させている。ワクワクしながら働けそうです。
まさに、「LIQUID eKYC」のビジネスを少しずつ進化させながら、横展開させていくための技術開発は楽しいですし、もちろん、現サービスの課題解決をするのも楽しい。 特に「LIQUID eKYC」は、金融機関向けのサービスとして開発を開始したため、セキュリティはかなり高いものを作っている自負があります。この仕組みは、今後もブラッシュアップしながら未来に残っていくものだと思っているので、「LIQUID eKYC」を用いたさまざまなサービスを開発したいですね。
暗号化技術は簡単なものではなく、仕組みとして作り上げることの難しさもありますが、いずれ我々が考える「マイノリティ・レポート」のような世界は作りたいと考えています。
不都合な事実も隠さず共有し、世界中の仲間と未来を作る
—— 大岩さんが仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか?
技術というのは発展途上で、失敗することもあれば、環境によって精度も変わります。それに、指紋認証や顔認証などの生体認証では、「他人受入率」という他人を本人だと誤認してしまう割合などが使われますが、1/100万などの非常に小さな数字のときもあり、人間が想像するには限界のある数字なんですね。だから、油断をしていると間違った判断をしかねない。我々にとっては不都合な事実だったり、知らない事実だったりしても、それらをきちんとオープンに共有することを大事にしています。
メンバーに対しても、どこに技術の罠が潜んでいるかわからないので、自主性を持って注意深く、物事の本質を見ることを大切にして欲しいと伝えています。そのために、ネガティブなこともフランクに話せるよう、オープンコミュニケーションを心がけているところです。
—— 今後大岩さんが挑戦したいことを教えてください。
個人としては、これまで社外に公表してこなかった開発の様子をオープンにしたいと考えています。我々は画像処理技術を商用化できていますが、外部のエンジニアからは、同じように画像処理や機械学習、認証技術などでビジネスを始めたくても、実証実験から抜け出せないという話をよく聞くんです。
加えて、大学で研究をしている学生にとっても、実際に商用化している生体認証技術の事例は知りたい情報だと思うので、一つの事例として我々のノウハウやナレッジはオープンにしていきたいと思っています。
そうすることで、日本に限定せずに、世界中で同じ未来を描くような人と仲間になりたい。世界中の人たちと知恵をシェアしあい、便利で快適な世界を実現させられたら、こんなに幸せなことはないと思っています。