働き方改革が叫ばれるようになり、副業や兼業、時短、在宅ワークなどが一般的に認知されるようになった現在の日本。しかし、それよりずっと前から、労働力人口の減少と、働きたくても働けない人たちの両方の課題を解決すべく、日本で先駆けとなるクラウドソーシングビジネスを始めたのが株式会社うるるだ。同社は、単にクラウドソーシングで発注したい企業と働きたいワーカーをマッチングするのではない。ワーカーを活用した事業を立ち上げて、そのサービスを企業が定期利用することでワーカーに報酬を還元する、ユニークなスタイルを取っている。具体的にうるるとはどんな組織でどんなビジネスを展開しているのか。取締役 広報/採用管掌の小林伸輔氏に話を聞いた。
日本で先駆けてクラウドソーシングのビジネスを始める
—— うるるは、どんな社会課題を解決しようとして立ち上げた会社なのか教えてください。
日本で、少子高齢化に伴う労働力人口の減少が取り上げられるようになったのが2000年頃。2007年には団塊の世代が定年を迎え、新しく社会に入る人よりも出て行く人の方が多くなったことで、問題がより一層深刻さを増すようになりました。
一方で、子育てや介護などで旧態依然の働き方、オフィスに出社して9時から18時までフルタイムで働けない人は何百万人もいると言われていました。つまり、日本では労働力不足と働きたくても働けない人がたくさんいるという、対極の問題が同時に発生したのです。
そこで、子育てや介護中の人も、在宅ワークで場所や時間を問わず仕事ができる環境を作れば、対極にある2つの問題解決につながるのではないかと考え、2006年にうるるは誕生しました。
—— 2006年頃は、在宅ワークはまだ市民権を得ていなかったですよね。
設立当時は「在宅ワーク=悪徳業者に高い教材を買わされる」といった怪しいイメージがあったので、このイメージをクリーンにすべく、私たちは最初からなるべく早いタイミングでの上場を目指していました。
クラウドソーシングのビジネスモデルが日本で認知されるようになったのは2012年あたりからと記憶しているので、その遥か前から僕らはクラウドソーシングビジネスを行っていました。
唯一無二の、自社事業にワーカーを活用するCGSモデル
—— 具体的にどのような事業を立ち上げたのでしょうか。
子育て中の人を中心に「どんな仕事をしたいか」とアンケートを取ると、圧倒的に多かったのが「データ入力」の仕事でした。そこで、最初に作ったのがデータ入力に特化したBPO事業です。
ただ、データ入力の案件を受注してワーカーに発注し、出来上がったものを我々が検品してクライアントに納品するビジネスモデルでは、効率が悪い。クライアントとワーカーを直接マッチングした方が効率がよく、スピーディーになると考えて、クラウドソーシングのプラットフォーム「シュフティ」を作りました。
しかし、そこで発生した問題が、買い叩きによる価格破壊です。案件の単価が下がってしまうようでは、在宅ワーカーはワーキングプアになってしまう。
うるるが実現させたいのは、在宅ワークのスタンダード化です。そこで考えたのが、我々の作る事業にワーカーを活用する**CGS(Crowd Generated Service)**というビジネスモデルでした。CGSとは、我々がワーカーに仕事を発注してサービスを作り、それをクライアントに定期利用してもらうサブスクリプションの仕組みです。
その一つが、現在主力となっている、全国の官公庁や自治体等の入札情報を一括検索・管理できるサービス「入札情報速報サービス NJSS」。
日本では、道路工事やダム建設、ごみ収集、システム開発、人材派遣などさまざまな公共事業が、国や自治体から発注されており、その額はなんと年間約22兆円にものぼります。
しかし、民間企業が「案件の入札に参加したい」「抜け漏れがないように全国の入札情報を得たい」と思ったら、全国に7600ある各自治体や省庁のホームページを毎日チェックする必要があるんです。しかし、これは現実的ではありません。
そこで、シュフティに登録している在宅ワーカーに、7600のホームページから入札情報や落札情報を目視で集めてもらい、それをうるるがデータベース化して情報を簡単に検索、分析、管理できるWebサービスを作りました。
これを2008年にリリースしたところ大ヒットし、うるるの業績が一気に伸びると共に、居住地に関係なく普通に会社で働いているのと変わらない金額を稼ぐワーカーが現れるようになりました。
固定費化されていない労働力が、模倣できないサービスを生む
—— 入札情報速報サービスがヒットしたのは、何が理由だったのでしょうか。
理由は、インターネット上の情報はWebクローラーを使えば集められますが、入札情報の場合ほとんどがPDFでまとめられているので収集が困難なんですね。それを、人力で収集することで抜け漏れのない品質の高い情報をクライアントに提供できたことがヒットの要因です。
それに、他社が同じように人力で情報を集めようとすると、コストがかかりすぎてビジネスが成り立ちません。我々は固定費化されていない労働力、つまり在宅ワーカーという“会員”を抱えています。人を雇用しているわけではないので、スペースを用意する必要も、労務管理費や採用費もゼロ。純粋に働いた分だけ対価を支払うモデルのため実現できました。
最近では、PDFからでもテキストを引き抜ける技術は開発されていますが、全文を引き抜くためデータベース化するためには、結局のところ人力が必要になります。それなら最初から人力で入札情報を集めた方が効率は良く、そこに在宅ワーカーの力が生きたのです。
—— 在宅ワークをスタンダードにするために、CGSというユニークなビジネスモデルが誕生したのですね。
そうですね。在宅ワークをスタンダードにするためのマスト条件は、安定した仕事があり、その仕事できちんと稼げること。クラウドソーシングだけではなかなか実現が難しいのですが、CGSのモデルを作ったことで安定的に仕事ができるようになりました。特に、「入札情報速報サービス」は日本から入札の仕組みがなくならない限り、安定して仕事がありますよね。
また、我々はワーカーが満足いく単価で発注をすること心がけており、それができるのも、労働力に付加価値をつけて提供し、そこで得られた利益をきちんとワーカーに還元しているから。現在、シュフティには40数万人の登録ワーカーがいますが、子育てや介護で自由な時間を作りづらい人に効率的に働いて欲しいと思っています。
会社はホーム、社員はファミリー
—— うるるには、このユニークなビジネスモデルや社会課題を解決するビジョンに共感した人が集まっているのでしょうか。
仲間になってくれる人には大きく3つの共感軸があって、1つ目はビジョンへの共感で、労働力不足や女性活用などの社会問題を解決したい人。2つ目は、どこもやっていないユニークなビジネスモデルです。
シュフティにはいろんなバックグランドを持つワーカーが登録しているため、いろんなCGSサービスを展開できる可能性があるんですね。たとえば、電話受付を代行して受電内容をチャットやメールでお知らせする**「fondesk」というサービスや、写真販売までの手間を大幅に削減する、幼稚園や保育園向け写真販売システム「えんフォト」**など多岐に渡ります。
—— そうしたサービスは、社員のアイデアから生まれることもありますか?
まさに、fondeskは社員のアイデアから生まれたものです。
また、数年前から新規事業コンテストを開催しており、社歴や年齢、役職に関係なく、事業企画を役員にプレゼンし、アイデアが通れば予算がついてプロジェクト化されます。最近も、新卒1年目がプレゼンしたアイデアのプロジェクト化に向けて具体的な話をしているところです。
それから、共感軸として外せないのが、3つ目となる**「うるるのスピリット」という価値観・カルチャーへの共感**です。これを僕はわかりやすく「超仲間主義の超チャレンジ主義」という言葉で表現しているのですが、創業時からずっと変わらずに大切にしているのが“人”なんですね。
「うるるのスピリット」の一つに**「会社はホーム、社員はファミリー」**という価値観があり、何をやるかよりも誰とやるかが大事だと考えていますし、役員陣もそれを本当に大切にしています。よく、ネガティブな意味でそれを“仲良しこよし”と揶揄されることがありますが、僕らはそれでいいと思っていて。
「会社はホーム、社員はファミリー」と堂々と言える関係性と心理的安全性の高い環境を作れているから、”仲良しこよし”は合理的です。むしろ、徹底的に”仲良しこよし”であろうと言っていますね。
もちろんそれは、単なる“なあなあ”の関係ではなく、オープンコミュニケーションで意見は何でも言えるし、手を挙げれば社歴に関係なく抜擢される、信頼関係があるということ。信頼しあっている仲間だからこそ、新卒1年目でも手を挙げた人にプロジェクトを任せるなど、権限委譲は進んでいます。
絆を深めるコミュニケーション施策
—— 社内でのコミュニケーションを活性化するための施策はありますか?
たくさんあって、たとえば社長から派遣社員までランダムにメンバーを選び、会社のお金で飲みに行く**「のみゅーん」**という制度があります。これはお酒を強要する、上司を接待する場ではありません。事業が違えば「初めまして」の人も多いため、お互いの人となりや仕事内容を知って普段の仕事に役立てたり、会話の中から新しいアイデアが生まれたり、相談しやすい人を見つけたりする場。
同じような試みで、隔週の水曜日の夜には**「うる水」**という自由なテーマで語るライトニングトークイベントも開催しています。プレゼンする人は自分の趣味でも生い立ちでも恋愛観でも何でもいいので、10分ほどみんなの前で話します。みんなでケータリングを囲んで話を聞き、仲間の人となりを知って絆を深めていますよ。
—— 人を大切にするからこその施策であり、ボトムアップ文化もあって多様性を認める組織であることがわかりました。最後に、小林さんが仕事をする上で大切にしていることを教えてください。
僕は、互いに利益を与え合うような“互恵社会”を作りたいと思っているので、人と人とのつながりを大切にしています。加えて、日本の労働力不足は避けられないからこそ、クラウドソーシングによる在宅ワークをスタンダードにするのと同時に、全員に自分のビジョンや志を持って仕事をしてもらうことが大切だと考えているんですね。
自分は何のために働くのか、なぜうるるにいるのか、ここで何を成し遂げたいのか。僕自身もそうですし、働く仲間全員に、自分や会社の存在意義を考えてもらうことで、より生産性高く働き、豊かで幸せな人生を送れたら素敵だなと思っています。