日本最大級のプログラミング教育サービス「Progate(プロゲート)」。数年前からのプログラミングブームを支えた、代表的なサービスの一つだ。今やプログラミングは、実際の業務だけでなく、副業や教養として学びたいという人も増えた。一方で、ニーズが多様化したことにより、Progateは選択と集中を迫られているという。サービス開始から8年。第二創業期を迎えるProgateエンジニア組織の今について、 株式会社Progate 取締役COOの宮林 卓也氏と、同社CTOの島津 真人氏に話を聞いた。
Progate=ユーザーが自由に遊べる広場
――プログラミング教育の第一線をリリース以来走り続けているProgateですが、エンジニアの視点からプロダクトをどのように見ますか。
島津 一般的なWebサイトとはまた違った技術が用いられており、技術的難易度の高く、少し変わったプロダクトだと思います。
Progateの最大の特徴は、ユーザー自身がプロダクト上でソースコードを書く点です。多くの場合は、ボタンをクリックさせたり、フォームに入力させたりするだけで目的を達成しますが、それだけではなく、ユーザーさんがある程度自由にコードを書け、それを判定できるような実行環境を設計する必要があります。それは、私たちエンジニアにとっても自由度が高いという意味であり、それが面白くもあり難しくもありますね。
また、Progateが題材として提供しているソースコードをユーザーに見られて評価される、という側面もあります。そういった部分でも、Progateは、他のプロダクトと異なる点も多いのかなと思いますね。
――言わば、ユーザーが自由に遊べるための広場を作るようなイメージでしょうか。
島津 そうですね。近いと思います。Progate上には、弊社のコンテンツプランナーが用意した様々な遊具に相当するプログラミングのお題があります。ただ、技術的な難しさによって、提供できる範囲が決まってきます。
例えば、ブラウザ上で動くものに限定すると、JavaScriptやHTMLのコースしか作れないかもしれません。しかし、現在のProgateでは、RailsのコースやNode.jsのコースなどが提供されています。これは、弊社のエンジニアの試行錯誤により、AWSのサーバー上でユーザーのコードを動かす仕組みを作った結果の一つです。
広場の例えで言えば、エンジニアが遊具に必要な部材を用意することで、広場の大きさや提供できる幅を拡大することができます。そして、その部材をどう組み合わせて、良い遊び道具を作っていくのかは、コンテンツプランナーが担当します。
エンジニアがその土台を作らなければ、Progateそのものが成り立たないので、エンジニアリングには相当力を入れている会社だと言えます。
宮林 そうですね。その土台となるシステムは8年前に作られたものをベースに、現在にいたるまで常にアップデートし続けてきました。
ユーザーにとってはもちろんですし、自社のエンジニアにとっても、より成長が促進されるようなプロダクトを作っていきたいと思いますね。人の可能性を最大化させたい
――宮林さんは、取締役COOとしていくつものチームを立ち上げてきたそうですね。Progateではどういった組織の作り方をしているのでしょう。
宮林 前職では経理や総務、人事などバックオフィス系を担当してきました。
Progateに入社してからはその経験を活かして、コーポレートからHR、CS、PRチームの立ち上げや、法人向け事業の強化などを行ってきました。具体的には、必要そうなポジションに適任だと思われるメンバーを配置して、一度オペレーションを回してみる。
そして流れを掴みながら、その後に自分より優秀な人材を採用してチームに加えたら、自分は別の必要なところに移って、また同じようにチームの育成とオペレーションの最適化に取り組んでいます。
――より優秀な人材を採用、という点が特徴的ですね。
宮林 はい。Progateでは、自分より優秀な人に仕事を任せる組織文化が受け継がれており、私自身も実践してます。
以前、日本の一般的な中小企業に勤めていたことがありました。そこでは上司に言われたことをただやるだけ。難しいことを考える必要がない点は楽ですが、自分自身が上司の劣化コピーのような存在になっていく感覚がありました。
例えば、10人で10億の売上を上げている会社でも、人を倍に増やしたところで売上は倍にはなりませんよね。同じように、どんな人を採用するかで、組織の強さや成長速度が全く変わってきます。
Progateでは、自分よりも良いパフォーマンスを出せる人にはどんどん役員からも権限委譲していけるように心がけています。――ありがとうございます。島津さんは元Googleのエンジニアで、今は新規プロダクトProgate Pathのテックリードやグループリードを経てCTOを務めています。なぜスタートアップであるProgateに入社されたのでしょうか。
島津 一言で言えば、プログラミング教育の可能性に魅力を感じたからですね。
Google時代は、Google Chromeのプロジェクトに約5年間従事していました。ブラウザベンダー間での仕様の調整をしながら、JavaScriptのAPIの開発を行っていました。
それに加えてある時期、大学生向けにプログラミングを教えるためのプロジェクトに参加し、テストや講義などを作っていました。約8週間、3時間の授業を毎回受けて、その後の面接を通過した人はGoogleのインターンに進む、といった内容で。
その企画自体はとてもいいもので、実際にエンジニアになった人もいましたが、内容を届けられる人が全部で多くても50人程度だったんです。これは、とても勿体ないなと思いました。
しかも、その50人は最初のテスト段階である程度選ばれてきた人たちであり、本当の初心者ではありません。今その瞬間に一定のスキルに満たないだけでさらなる教育の機会を失うという問題に対して、そこは世の中全体としても解消したいな、という思いは以前から持っていました。
そんな時に、Progateの代表に声をかけてもらって、ここなら面白いものが作れるかもしれないと思い入社しました。
宮林 島津さんの言っていることがとてもよく分かります。私がProgateに入社を決めたのも、人の可能性を最大化させるという考え方に、共感したからでした。
今私には、7歳の息子がいるのですが、彼がプログラミングをやりたいと言ったとします。でも、私自身はプログラミングに挫折した過去がある。「じゃあ、こんな順番でやればいいんじゃない?」といったアドバイスは出来ないんです。かと言って、島津さんのようなエンジニアに付きっきりで見てもらうことも難しい。
でも、ITの力を使えば、世界中にスキルを届けられますよね。これは知識の標準化というか、救われる人が一定いる世界観だと思うんです。
人の可能性の度合いが広がる、みたいなところにすごい興味があるので、今自分はここにいるのかもしれないです。――宮林さんから見て、島津さんはどんなイメージですか?
宮林 僕は島津さんを天才というよりも、きちんと積み重ねてきたものがあるエンジニアだと思っています。人間味があり、苦しい時は苦しいという顔をすることもありますが、自分の中に明確な答えや納得感を持ち、相手の感情を読み取ってくれようとしているスキルがすごく強いと思っています。
経営者にとって、弱いところを見せることや迷っていることを話すことはなかなか難しいですが、島津さんはそういう時にもじっくりと話を聞いてくれますね。
島津 ありがとうございます。私が感じる宮林さんの特徴は、人に対する興味が非常に強いことですね。人間関係や人に対する考え方に関心を持っているため、その部分が仕事のコアにあるのではないかと感じています。
モノづくり好きが挑戦できる環境
――実際にProgateでエンジニアとして働いている方についても教えてください。やはり、モノづくりが好きな人が多いのでしょうか。
宮林 はい。プログラマーに限らず、自分で何かを作り上げることに興味を持っている人が多いですね。
特にプログラマーの場合は、自分が書いたコードが動いた時に感じる達成感や喜びなど、コードを書くこと自体に楽しみを見出している人が多い印象です。また、その面白さや楽しさを、他の人にも味わってもらいたいと思っている人が多いのではないでしょうか。
島津 そうですね。社員の中には、Progateユーザーだった人も多くいるため、プロダクト愛がすごいんですよね。ユーザーとしての経験を活かして、より良いプログラミング学習環境を作ることに熱心な人は多いと思います。
――エンジニアとしてProgateで働く魅力とは何だと思いますか。
島津 自社サービスを作る経験が得られる点は大きな魅力ですが、それだけではありません。スタートアップならではの裁量の大きさも魅力の一つですね。
例えば、自分が担当する領域については、将来的にどのような機能を作りたいのかを考えて、それをProgateの機能として実装することができます。フロントエンジニアだからと言ってそれ以外を触っていけないということはなく、専門領域に限らず自らの可能性を拡げていくことも可能です。
また、会社のカルチャー面でも、チャレンジ精神を称賛する雰囲気は根付いているなと感じますね。なので、難しい問題に突き当たったとしても、誰も聞く相手がいなかったり孤独になることは滅多にありません。
――宮林さんは、働く魅力について補足はありますか。
宮林 社員の挑戦を支える仕組みについても話したいです。自由度が高く、アイデアを無限に出せる環境の中で、いかに自分がやるべきことにフォーカスするのかは重要な問題です。
私たちは、それをOKRの運用によって成長機会を作っています。
会社としてのOKRを設定することによって、今のフェーズは子供向けに行きたいのか、対企業に対して価値を提供したいのか、コンテンツを深めていきたいのか、などについて経営陣も含めて全員で明文化して目線を合わせることができます。例えるなら、責任と裁量を渡すためのガードレールのような存在なのかもしれません。
そうした環境も整っているので、目の前の仕事においても、キャリアの面でも計画を立てやすい特徴もありますね。
求めるのは、楽しみながら手を動かせる人
――巷では、各社エンジニア不足が叫ばれています。エンジニアの市場価値という観点では、Progateで働く事はどうなのでしょうか。
島津 自社のことながら、市場価値は高くなると思います。なぜなら、ユーザー数が多く運用期間が長い、かつ大きなデータ量を扱っているプロダクト開発の経験を持つ人材は、今どの会社でも求められているからです。
また、Progateは比較的新しい技術も使っているため、レガシーだけでなくモダンな開発も経験できます。既存のシステムから新しいシステムへの移行についても積極的に取り組んでいるため、どこに行っても大丈夫な汎用的な知見を身に付けられると思いますね。
──どのような人にProgateの仲間になってもらいたいですか。
宮林 まず熱量のある人に来て欲しいと思っています。会社としてやるべきことは分かっているので、仕事を分解して渡すことも出来ますが、ただ与えられた仕事だけをやるという人よりも、目標を決めて自ら自由に動ける人が理想ですね。
今、Progateは第二創業期という重要なタイミングにいます。プロダクトも第二フェーズを迎える中で、既存ユーザーへの影響を最低限に抑えつつ、何を捨てるのか決めなければなりません。
このような状況に対して興味を持っていただける方、あるいはすでにご経験のある方にとっては、Progateで素晴らしい活躍の場があると思います。
島津 私がProgateに向いているなと思うのは、楽しみながら手を動かせる人ですね。新しいものを作るためには、必要な知識を身に付け、実際に作り上げるための実行力が必要不可欠です。
逆に向いていないなと思うのは、アイデアは出すけど手を動かせない人。自ら手を動かしてやり切ったあとに、「大変でしたね、次何しましょう」みたいに言ってくれる人は最高ですね(笑)
――第二創業期を迎え、Progateはどこに向かうのでしょう。
宮林 より戦略的にサービスを拡張させていきたいですね。今Progateには、Progate、Progate for Business、英語版、インドネシア語版などが多岐にわたって連なっています。
少人数で始めた創業期には、優秀なエンジニアが一人で全てのセクションを見るのが効率的だと考え、戦略的にプロダクトをモノリス(一つのプロダクトの中に複数の機能がある)を構築してきました。
一方で、時代の流れによるニーズの多様化に対応するため、今後プロダクトを切り分けていくことも考えています。採用も強化して優秀な人材が増えることで、プロダクトごとに専門分野を持つ人材を抱えることも目指しています。
プログラミングが社会で注目されてから数年が経ち、データやAI領域が流行りの今、エンジニアのみならずプログラミングの考え方は多くの分野で活用されつつあります。Progateを通じて、新しい価値を創造していけるように試行錯誤していくつもりです。──これからが楽しみですね。
宮林 そうですね。その意味で、会社の屋台骨として活躍してくれる人を今求めています。
いまProgateに対して「Progateだけじゃエンジニアになれないよ」と不満を持っている人、エンジニアとしてこのままでは足りないと思っている人、ここが改善されれば素晴らしいと感じている人、このような方たちと、ぜひ人の価値を最大化させるようなプロダクトを一緒につくっていきたいですね。