新型コロナウイルスの感染拡大を収束させるための自粛要請がきっかけとなり、働き方の変革を余儀なくされている全国の企業。当たり前が当たり前ではなくなった、予測のできない新時代に突然突入した今、企業に求められているのはテレワークだ。そして、そのために必要なコミュニケーションツールが脚光を浴びている。なかでも、国産のビジネスチャットツールとしては草分け的存在のChatworkには、新規導入の問い合わせが連日鳴り止まないという。Chatworkの優位性や、今後の働き方のトレンドとは。執行役員兼事業推進本部長の福田升二氏に話を伺った。
突然訪れた極端なニーズ。追い風を受けるSaaS企業
—— 新型コロナウイルスの影響により、多くの企業でテレワークを導入する動きが加速しています。ビジネスチャット市場への影響はいかがでしょうか。
**ビジネスチャットに限らず、SaaSのマーケット全体で、ニーズが極端に増大しています。**Chatworkも例外ではなく、全国各地のさまざまな業態の企業から日々大量のお問い合わせをいただいている状態です。
もともと、東京オリンピック開催期間中のテレワークを国や東京都が推奨するなど、働き方改革が日本の大きなテーマだったので、働き方を効率化するビジネスツールのマーケットは緩やかに伸びていく予定でした。
ただ、初動としてはテレワークが全国的に浸透することはなく、都内を中心とした一部の企業が取り入れる程度だろうと考えていたのですが、今回の新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言と自粛要請によって、ガラリと社会が変わりましたね。テレワークをするには必ずコミュニケーションツールが必要なので、Chatworkはかなりの追い風を受けています。
しかもこの波は一過性のものではなく、Withコロナの社会ではテレワークが当たり前になると考えています。—— ビジネスチャット業界が世の中の大きなトレンドになっているのですね。そのなかで、Chatworkの優位性は何でしょうか。
チャットツールはいずれコモディティ化していくので、細かい機能の差はなくなっていくと思いますが、Chatworkの特徴は国産ビジネスチャットツールの草分け的存在であること。2011年から、日本企業と高い親和性を持てるようにプロダクトを作り込んできた結果、介護や医療、士業、製造業、流通業などの「非IT」の中小企業に積極的にご利用いただいています。
たとえば、メールに慣れていた人が違和感を覚えないよう、チャットのメンションは「to」で表示され、名前の後ろには「さん」が付くようになっているんですね。小さいですが、こうした日本らしい気遣いが差になるのだと思っています。他にも、メッセージの送り手と受け手双方のストレスを考え、あえて「既読」機能を付けない方針も取っています。
また、中小企業は1社だけで仕事を完結させるのではなく、複数社で連携しながら仕事をしているケースがほとんどです。ChatworkはUI・UXとしても複数社がシームレスにつながりやすいように設計されているため、社内外での情報共有が多い業態や業種の企業に非常にフィットしています。
シームレスにつながるためには、ITリテラシーがあまり高くない方でも簡単に使えるツールでなければなりません。Chatworkはあえて機能を絞ってシンプルなサービス設計にしていることも1つの特徴だと思います。
非ITの中小企業の多くが非効率なコミュニケーションを取っている
—— 非ITの中小企業がChatworkを導入するとデジタル化の第一歩になるので、社会的意義も大きいように思います。
まさに、非ITの中小企業の多くが非効率なコミュニケーションを取っていて、それをいかに効率化していくかは日本の課題です。たとえば士業では、顧客とのコミュニケーションを対面や電話でおこない、書類も個別にメールやFAXで送付していたり、介護や医療でも、利用者や関係者の情報共有が紙や電話、個人のLINEやMessengerでやり取りされていたりします。
それらは当たり前の日常業務とされていますが、非効率・情報漏洩リスクが高いコミュニケーションで、属人化された業務であることに間違いありません。それを、チャットに置き換えるだけで、当然、無駄な業務時間が減って本質的な仕事に集中できますし、人材不足問題も緩和できる可能性が高い。
経済産業省が企業のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を推進していますが、日本の企業の約99%は中小企業なので、中小企業でDXが進まない限り実現しません。だから、Chatworkを日本の非ITの中小企業に広く浸透させることで、DX化の第一歩になると嬉しいですね。
飲食業、農園etc。IT化が進んでいない業界ほど、価値を感じる
—— 非ITの中小企業が活用している、Chatworkらしい事例を教えてください。
事例は山のようにあるのですが、たとえば静岡県御殿場市でレストラン4店舗と地ビールの販売をされている御殿場高原ビールさん。飲食業界でIT化が進んでいる企業はとても少なく、御殿場高原ビールさんも情報共有は口頭で行なわれていました。
しかし東日本大震災のとき、連絡を取りたくてもメールは混み合って届かず、社内の安否確認システムも一方通行で相互コミュニケーションが不可能なことが課題として浮き彫りになったそうです。そこでChatworkを検討したのですが、心配だったのはパソコンにアレルギーがある社員や年配者も違和感なく使えるかどうか。
いざ導入するとスマホでも簡単に使えることで、社内からの反発は一切なかったとのこと。今では、料理長同士がグループチャットを作って情報共有するなど、コミュニケーションの中心にChatworkが存在しているそうです。
また、茨城県で奥久慈卵を生産しているひたち農園さんは、情報共有がスムーズになっただけでなく、タスク漏れやクレーム対応の遅れも解消したと聞いています。こうした、IT化が進んでいない業界こそ、導入すると大きな価値を実感してもらっていますよ。
それからもうひとつ、これはIT企業なのですが、緊急事態宣言が出る前の1月27日からグループで一斉に在宅勤務に切り替えたGMOインターネットさんも、Chatworkユーザーです。
以前から業務の中心にChatworkがあったから、テレワークへの移行はスムーズでした。しかもChatworkには大人数が参加できるビデオ/音声通話機能もついているので、出社していた頃と変わらずに仕事ができているそうです。
収束しても元の世界には戻らない。働き方は個別化する
—— 今後については読みづらい状況ですが、働き方を含めて今後の日本社会はどのように変わっていくと思いますか?
新型コロナウイルスが収束しても、元の世界には戻らないと思います。再び同じように感染が拡大したらどうするかを考えるようになり、働き方が変わるのは間違いないでしょう。
「働く」の中心にはテレワークの概念があり、出勤する人もいれば、在宅の人もいる。複数社を掛け持ちする人も増えるでしょうし、働き方は個別化していくと思います。そもそも、会社に属することや働くこと自体の考えが変わっていくはずです。そうした多様な働き方・考え方をどれだけ許容できるか。企業が試される時代になるのではないでしょうか。
働く人にとっても、年功序列や定時出社の概念は崩れたので、「毎日会社に行って頑張っていたら評価される」社会から、「個人の成果で評価される」社会になります。すると、個々の能力を高める必要があるので、日本全国で面白いチャレンジになるかもしれません。
また、今回のような有事の際における既存の仕組みの脆さを大手企業から中小企業まで、日本中の企業が認識したと思います。だから、働き方やその仕組みを変えていくのは中長期的なトレンドになるでしょうし、時間や場所を問わない働き方を実現するためにも、コミュニケーションツールはその中心となり続けるはずです。
世の中の大きなうねりの中心で価値提供できる
—— 世の中の変化の中心にあるコミュニケーションツール。その提供者として働くことには、大きな価値がありそうです。
それは間違いないですね。誰も抗えないような大きなうねりの中心で、価値提供できる会社はそんなに多くないと思います。この大きな転換期に主役になれるのは、ビジネスパーソンとしてかなり貴重な体験になるはずです。
そもそも、労働力人口の減少によって2020年をピークに縮小していくと言われている日本経済のなかで、圧倒的にグロースする業界は少ないでしょう。
そのなかで、ビジネスチャットツールは今もこれからも必ず必要とされる、社会貢献度が高いツールです。日本全体で見ると導入率はまだまだ低いので、同じ状況下にある競合サービスを含めてビジネスチャット自体の認知を高め、Chatworkは全国の企業の働き方を変えていく、大きな役割を担いたいと考えています。