右肩上がりでの成長を続けているインバウンド市場。日本経済や全国各地でのビジネスに、その重要性は無視できない。この市場を2030年までに15兆円規模に成長させ、未来の子供たちが誇れる産業にしようと事業拡大を続けているのがインデンコンサルティングだ。同社は、24時間365日、スマホやタブレット端末で6言語に対応した約150名のバイリンガルスタッフがビデオ通話で通訳するアプリ「スマイルコール」を運営している。未来の日本、未来の子供たちのためにと語る代表の斎藤正寛氏に、インバウンドの可能性を聞いた。
日本で暮らす「未来の子供たち」のためになるビジネスをしたい
—— 斎藤さんが観光事業に携わるきっかけとなったのは、学生時代のバックパッカーだったと伺いました。
学生時代、アジアを中心によく一人旅をしていました。そのなかでの気づきは2つあり、ひとつは“メイド・イン・ジャパン”のバイクや自動車、家電が重宝されていて、学生の僕でも日本人というだけで現地の方がとてもよくしてくれたこと。「君の国のバイクは壊れないから大好きだ」と。
そのとき、日本は本当に“ものづくり大国”であり、日本製品の良さを実感しました。
もうひとつの気づきは、日本とアジアの国では経済格差があまりに大きかったこと。僕はバイト代を貯めて一人旅をしていたわけですが、それでもタクシーに乗ったり美味しい料理を食べたりと、特にお金には困らなかったんですね。
一方、アジアの人は多言語を話せて、将来のビジョンもあるのに、お金を持っていない。旅行先で会話するたびに、僕より遥かに優秀で努力してると痛切に思いました。日本が恵まれているのは、戦後の高度経済成長期で日本をものづくり大国にした大先輩方がいたからで、その恩恵を自分が受けていることに気がつきました。
だから自分も、将来の子供たちのためになるビジネスをしたい、なかでも観光業をやりたいと思うようになりました。
—— いくつも選択肢があるなかで、観光業だったのはなぜでしょうか。
今でこそ観光業はブームですが、当時はそんなことなかったんですね。もっと伸ばせる市場で、大きな産業になってもおかしくないはずなのに、日本は外国人に対してどこか冷たかったり、苦情を言ってたりした。そもそも観光業界の人気もなかったです。 早いタイミングでこの観光業に参入すれば、業界をガラリと変えられるチャンスがあるのではないかと考えたのがきっかけです。
ブランドが確立されていない環境で、最大の挑戦をしたい
—— その後、新卒では「ベンチャー通信」や「ベストベンチャー 100」などのメディアを運営する(株)イシン(旧幕末)に入社されています。
いずれは観光業での起業も視野に入れていたので、まずは経営者とは、商売とはを学びたいと考えました。
イシンを選んだのは、自分で営業活動をしながらいろんな経営者に直接話を聞けるから。しかもありがたいことに、入社1年目で1人大阪に行って関西支社を立ち上げる機会をもらいました。この経験が積めたのは非常に良かったです。
—— イシンで 4 年勤めた後、京都に本社を置くインデンにジョインされました。どういった経緯だったのでしょうか。
イシンで修行を積み、いよいよ観光業に身を置こうと考えたタイミングで、観光のイメージが強い京都に本社を構える観光業の会社を洗い出しました。そして見つけたのがインデンです。
もともと僕は、確立されたブランドがあって優秀な人が集まっている大手企業ではなく、自分のパフォーマンスを最大限に発揮して変革を起こせそうな、挑戦できる会社に入りたいと考えていました。
当時のインデンは、通訳アプリの「スマイルコール」の契約社数が右肩上がりで増えているにも関わらず、あまり営業活動に力を入れていなかった。**「ここなら自分の価値を発揮できるチャンスがありそうだ」**と思って入社を決めました。
入社後は、営業メンバーとして誰よりも成績を残すことに注力。実績を積むごとにポジションも上がっていったので、強いチームに変えていくための組織づくりを実施しました。この積み重ねによって、入社4年目の分社化したタイミングで社長に就任しました。
2030 年には 15 兆円市場へ。日本でインバウンドが伸びる理由
—— 斎藤さんが考える、インバウンド市場の可能性について教えてください。
市場が爆発的に伸びているのは周知の事実ですが、我々は流行りに乗りたいのではなく、成し遂げたいのはインバウンドを将来の子供たちが誇れる産業にすること。人口減少を避けられない日本では、今後さまざまな産業規模が縮小することが考えられますが、インバウンドは未来の子供たちを守る産業になるはずです。
実際、インバウンド消費額は現在の4兆円規模から 2020 年には8兆円、2030 年には 15 兆円になると予測されています。15 兆円といえば、自動車産業の輸出額と同じ。単なるブームではなく、新たな雇用も生み出し大きな産業に成長する、その面白いフェーズにインバウンド産業はあります。
そもそも日本でインバウンドが伸びている背景には、「ビザ緩和」はもちろん、デービッド・アトキンソンの「新・観光立国論」による観光国に欠かせない 4 つの要素「気候」「自然」「文化」「食事」が、日本には全て備わっていること。
春夏秋冬の四季がありますし、島国なので海も山もあり、季節と地域に合わせたさまざまな楽しみ方ができます。冬の北海道や温泉地、全国各地にある神社仏閣などの歴史的建造物は好まれますし、アニメ文化も日本が旅先に選ばれる理由の一つ。
和食はユネスコ無形文化遺産に登録されていますし、全国各地のさまざまな食材を季節に合わせて楽しめるのも日本ならでは。世界の中でも日本は観光のポテンシャルがもともと高かったため、観光産業は伸びるべくして伸びているのです。
—— そんななか、見えてきた課題はありますか?
最近は、外国人観光客をもてなす風潮になりつつありますが、少し前までは騒音や景観を壊すなどのクレームが多くて、お客様として扱っていないケースはよくありました。日本人の価値観や考え方の転換期にある今、誰もが外国人観光客との共存共栄を考えられるような社会にしていきたいですね。
150 名のバイリンガルスタッフが対応するスマイルコールの強さ
—— 通訳サービスアプリの「スマイルコール」の市場優位性について教えてください。
スマイルコールは、英語・中国語・韓国語・スペイン語・ポルトガル語・タイ語の 6 言語を通訳するアプリです。ユニークなのは、起動すると約 150 名のバイリンガルスタッフが常駐するコールセンターとつながり、ビデオチャットでリアルタイムに通訳ができること。
現在、約1万 4000 もの施設が導入しており、たとえば三井住友銀行さんは国内全店舗に導入されていますし、東急電鉄さんは駅員さんのスマホにスマイルコールが入っているので、どの駅で外国人に話しかけられても対応できるようになりました。
他にもホテルや病院、アミューズメント施設などさまざまな企業に導入いただいており、これからオリンピックに向けて導入企業はもっと増えると考えています。
世の中にたくさんある通訳アプリとの違いは、AI ではなく「人と人とのコミュニケーション」を重視した設計にしていることです。
旅先での簡単な会話、たとえば飲食店での注文や、観光地への行き方を調べるのは AI 翻訳でよくても、突然の病気や怪我で病院に行くなど切羽詰まった状態や、意図を組みにくい細かいニュアンスや方言交じりの言葉は、人じゃないと対応できないこともあります。
それを当社では約 150 名のコールセンターで対応しており、他社が参入しにくいユニークなポジションを独走しています。
インバウンド産業を拡大しつつ、伝統産業の復活も目指す。日本の未来のために
—— 最後に、今後の展開について教えてください。
インデングループでは「20 社 200 億円」、つまり10 億円規模の会社を 20 社作る目標を掲げています。もともと京都では飲食業を展開しており、その第二の柱として分社化したのがインデンコンサルティングのスマイルコールでした。
事業が立ち上がって軌道に乗れば、権限委譲して分社化する文化があるので、今後も新しい事業を生み出し、社長となる人材を輩出していきたいと考えています。
それからもう一つ、創業 400 年などの歴史を持つ老舗企業が、後継者不在によって廃業する現実を変えていくために、2023 年の IPO 実現に向けた準備を進めています。目指すのは、伝統産業を復活させて後世にまで残していくこと。
インバウンドもそうですが、すべては未来の子供たちのためです。市場と産業を拡大させながら、未来の日本に寄与したい。そのためにもまずは、2030 年までにインバウンド産業を本当に 15 兆円規模にすべく、走り続けたいと思っています。