日本にとって少子高齢化は避けられない社会課題の一つだ。2021年度の医療費は40兆円を超え、年間の社会保障費の3分の1以上を占める。年々その規模は拡大しており、もはや歯止めが効かない状況だ。そのような中、「介護」の領域に着目し、チャットによる医師相談や夜間のオンコール代行を中心に事業展開するのが、ドクターメイトだ。「すべての人の人生を右肩上がりにする」と語る、医師兼同社代表の青柳氏が目指す未来の姿とは。話を聞いた。
高齢化する日本で介護課題を解決したい。自分にしか出来ない道で起業
――ドクターメイトの事業領域が「介護」なのは、なぜでしょうか。
私たちは今、すべての人に医療アクセスを、というコンセプトで、「日中の医療相談」と「夜間オンコール代行™」という2つの事業を展開しています。
その背景には、高齢化により介護施設がどんどん病院化し、施設での医療的な対応が増えてきている、という問題があります。
これは、医師が一部の病院に偏在し、本当に必要な場所で医者の数が足りていないことと、医療費の増加によって生じているものです。
現在、**医療費は年々増加していて、約40兆円にまで膨れ上がっています。**そのため、病院に患者を入院させてしまうと、どんどん医療費がかかるので、病院側はなるべく早く退院させたい。
その結果、在宅や介護施設で医療対応を行わなければならない場面が増えてきます。当然、介護現場で専門的な医療知識や資格を持っている人は少ないので、病院と連携する必要があります。
ところが、残念なことに、病院と介護施設には分断があり、何かあってもすぐに医師が患者を見れずに対応が遅れてしまうことが現場ではよく起きています。
そうした現状を変えたいと思い、ドクターメイトの事業ドメインを「介護」に設定しました。
――青柳さんは医師でもあります。なぜ、起業という選択肢が出てきたのでしょうか。
**僕が医師になって病院に勤め始めてまず驚いたのが、入院患者の高齢化でした。**メインが80代〜90代で、介護施設からたくさんの患者が来るんです。
その中には、「何でこんな酷い状態になるまで連れてこなかったの?」と、すでに重症化してしまっている人や、「逆に何でこんな軽症で救急車を呼んでしまったの?」と疑問に思うことも多々ありました。
しっかりと病院と介護施設との連携であったり、セットで仕組み化していかないと、大変なことになると思いました。しかも、その課題は年々大きくなっている。ある時、先輩医師が起業していて、手伝っていたことがありました。そこで、ドクターでもビジネスに関わるという選択肢があっても良いんだ、とマインドが変わりました。
そこで良さそうな会社があったらジョインしようと思い、病院と介護の連携という軸で会社を探したのですが見つかりませんでした。じゃあ、自分で作ってしまえば良いのではないかと思ったのがきっかけです。
ただ、起業までの間には葛藤もありました。このまま医者だけを続けても良いのではないか。大学で良いキャリアプランを作る道もあるのではないか。
最終的に、今自分にしかできないことはどっちだろうと考えた時に、僕の場合は起業という結論でした。
――現在、医師としての仕事も続けていますよね。
そうですね。平日は会社の仕事をして、土日は横浜にクリニックを持っているので、そちらで診療もしています。
持続可能な形で介護人材を支える
――ドクターメイトは、どういった価値を社会に提供するサービスなのでしょうか。
介護人材を支えることを第一に考えています。
介護業界はこれまで属人的で、現場にいる人たちが何とか頑張って体制を維持し続けていた、という状態が続いていました。 しかし、これからどんどん人が減っていく中で、更なる人手不足は目に見えています。
それをITで仕組み化することで、持続可能な形で介護が行えるようにするというのが、一つの提供価値です。
――介護現場という非IT系の世界で、ITサービスを導入してもらい、かつ日常的に使ってもらうのは、とてもハードルが高いように感じます。
確かに、サービス導入当初は、とても苦労しました。新しいものというだけで拒否反応をされたり、今までのやり方でいいです、といった事業所の方も多かったです。
そのため、専従のスタッフを配置したり、私も常に提案の現場に出て責任者の方と一緒に施策を考えたりしています。そこまでセットで考えていかないとサービスの価値を感じてもらうことは出来ないので、徹底してこだわっています。
「そとの人に相談して、まともな回答が返ってくるのか?」といった不信感を最初に持っていた人でも、サービスを使っていくうちに、だんだん信頼してもらえるようになりました。現在は、400を超える介護施設にご利用いただいています。
――介護現場では、具体的にどんな相談内容が多いのでしょうか。
基本的に全科対応していますが、ライトなところでは例えば、お薬の相談です。
「このお薬とお茶って一緒に飲んで良いんですか?」や、「普段のスキンケアをどうすればいいですか?」など、わざわざ受診してまで聞くことではないけど、今悩んでいることを中心に相談されますね。
施設側のメリットはもちろんですが、医師側にも、普段見ることが出来ない他のドクターの説明の仕方や、選択の方法などをチャット欄で見ることができるので、勉強になり医師同士のモチベーション向上にも役立っています。
地球にいるすべての人の人生を右肩上がりにしたい
――実現したい世界観は、どのようなものですか。
私たちの会社のミッションは、「すべての人の人生を右肩上がりにする」です。人生の前半でどんなに頑張ったとしても、最後に立ち塞がるのは、誰しも医療や介護です。 それらは安心というより、不安の種ですよね。せっかく右肩上がりで頑張ってきたのに、良い形で終われるかどうかは、正直運次第なところもある。
そうした世界観を変えたい、という想いでやっているのですが、これは高齢者の問題だけではありません。
――どういう意味でしょうか。
未来の教育の話にも繋がると思っています。
国全体での介護医療費用は上がり続ける一方で、日本の教育費は20年前から変わっていません。社会保障費にガンガンお金を使っているのに、未来の世代の投資である教育に全くお金を回せていない。
そうした現状を少しでも適正化して、若者のためにその費用を使えれば、世界は大きく変わるのではないかと考えています。
2030年には世界34カ国が、日本と同じ超高齢社会になります。そのため、もし日本が介護医療問題における良いモデルケースを作れれば、世界がそれを真似する可能性が非常に高いはずです。
少しスケールの大きい話になってしまいましたが、ドクターメイトは、地球にいるすべての人の人生が最後まで右肩上がりになればいいな、ということを常に考え続けています。
信頼をベースに、フラットなコミュニケーションで事業を推進
――ドクターメイトのカルチャーについて教えてください。
基本的に、みんなイチャイチャしています(笑)チームで見ると専門職とビジネスメンバーがハイブリットでおり、リクルートやブライダル、介護系など、バックグラウンドは多様です。
カルチャーとして、チームで成果を出そうとお互いをリスペクトして信頼するコミュニケーションがベースにあるので、フラットに楽しんで仕事をしているのが特徴ですね。
――多様なメンバーが集まっているにも関わらず、フラットなコミュニケーションが出来ているのはなぜでしょうか。
私たちの作りたい世界観を、メンバーみんなで共有できている点が一つ。
あとは、そもそも取り組んでいる社会課題がとても大きなものなので、一人の力だけでは何も突破出来ません。
どうしてもチームの力を借りなければいけない場面も多いので、お互いがコミュニケーションの大切さをしっかりと認識できている点も大きいのかなと思います。
そのため、社内で活躍しているメンバーは、個人でガンガンやってきます、他は知りません、といった人はいないですし、採用方針としてもカルチャーフィットの部分はとても大事にしています。
僕自身もメンバーに対して、会社の目指している方向性や考えていることは、常に隠さず伝えることを大事に考えています。
――いま、ドクターメイトは、どのようなフェーズにある会社でしょうか。
やっと今、ピースが揃い事業スピードを上げるベースが固まってきたタイミングです。
良い意味で役割の細分化もされていないですし、しっかりとした土台も出来てきた。自分を伸ばすには、とても良いステージにあるんじゃないかと思います。
私たちの事業領域はレガシーな業界ということもあり、本当に様々なスキルや背景を持つ方と仕事をすることになります。なので、顧客視点だけでなく事業視点でも改善するプロセスやコミュニケーションスキルを学ぶことが出来ます。
一人ひとりに与えられる裁量権も大きいので、言われた通りにやるというよりは、目の前の課題に対して考えながら対峙していく創意工夫の力は確実に身に付くと思います。
笑顔で社会課題を解決する
――どのような人がドクターメイトに合っていると思いますか。
自分のやっていることがちゃんと社会のためになっていたり、結果的に身近の人や自分のためになるような事業に携わりたい人にとっては、打ってつけな環境だと思います。
介護業界はこれからニーズもマーケットも確実に大きくなっていく場所なので、色々な意味で面白い仕事ができるんじゃないでしょうか。
ただ、社会課題だからといって使命感だけでやるというのは、すぐに燃え尽きてしまいます。
なので使命感だけでなく、楽しく笑顔で社会課題を解決したい、そういったキャリアを描きたい方にはぜひ仲間になって欲しいですね。