ものを作れば売れた時代は終わり、1 to Nから1 to 1の時代が到来している。この時代、どこの業界でも重要視されているのが、「顧客視点」でのサービスづくり。顧客より顧客を理解し、期待値を超えるサービスを提供し続けるには、論理的思考かつデザイン思考での課題解決が求められるが、本当に実行できている企業は多いとは言えない。そんななか、創業以来、論理的思考とデザイン思考で顧客に寄り添い、常にサービスを進化させてきたのが「食品宅配」事業を中心に展開するオイシックス・ラ・大地だ。日々、顧客体験を追求している同社Oisix EC 事業本部CX室の阿部瑛里花氏は、論理的思考とデザイン思考は自社サービスだけでなく、社外でも生かせているという。具体的に、どのような活躍をしているのか。話を聞いた。
ターゲットとニーズは一括りにできない
—— 阿部さんが UIUX を考えるときに大切にしていることは何ですか?
とにかくたくさんのお客様にお話を聞くことです。オイシックス・ラ・大地は創業以来、なによりお客様に会って話を聞くことを大切にしていて、いまだに代表の髙島もお客様と会話する機会を持っています。
実際、入社1年目はお客様のご自宅に伺って話を聞いたり、冷蔵庫の中を覗かせてもらったりして、実際に生活している様子を見に行きました。またお客様に来社していただいたり、地方の方にはお電話で話を聞いたりと、あらゆる手段で、“毎日”お客様とコミュニケーションを取りました。
たぶん、これだけお客様と会話をして UIUX を設計している会社は珍しいのではないかと思います。でもそうしてお客様を理解するうちに表現したいものは増え、UX の精度と確実性が高くなりました。
ターゲットとニーズは一括りにできません。人によって家庭環境や食事の量、時間は全く違いますし、地域によっても食に対しての考え方は変わってきますからね。
また、一昔前は食に対して「安心・安全」だけが求められていたかもしれませんが、今は「献立を考えるのが大変」「仕事と子育てを両立させていて買い物になかなか行けない」「共働きで食事の時間も不規則で、栄養が偏りがち」など実に多様なニーズがあります。
こうした、さまざまなニーズを持つ、さまざまなお客様に対して、最適な UX を考えて食卓を提供できるのは純粋に楽しいですし、お客様に直接話を聞くことで次々と改善点が見えてくるのはとても面白いです。
特に UX を考えるとき、「こうしたら良さそう」といった自分の感情が入ってくると煮詰まりやすいので、すぐにお客様と話ができる環境があるのは、本来自分たちが解決したい課題を抱えるターゲットを見失わず、常に本質を捉えることができるので、ありがたいですね。
顧客視点で本質を捉え、デザインのアプローチで課題を解決する
—— 阿部さんは入社してからデザイン思考や UIUX を習得し、それが自社サービスだけでなく社外活動でも生かされたと聞きました。
先日、経済産業省主催の「ふるさとデザインアカデミー」というプログラムに個人的に参加したのですが、ここでオイシックス・ラ・大地で日々学び実行してきたことが、ちゃんと身についていることを実感しました。
これは、地域の事業者が抱える課題に対し、デザイン思考でビジネスを成功につなげる「デザインプロデュースができる人材」を育成するための実践型研修。
学生の頃から「日本の魅力を映像で世界に発信する」活動を続けるなど、地域課題の解決に興味を持っていました。そんな想いが社会人になってからもっと強くなり、やがては「地域をデザインプロデュースできる人材」になりたいと思ったんです。ただそのためには自分に何が足りないかを知りたくて、長野県諏訪市で開催された 4 日間のプログラムに参加しました。
このプログラムで、オイシックス・ラ・大地で培った、論理的思考とデザイン思考で課題解決につなげていくプロセスが生かされたと感じたのは、「地域ブランドとして認知度や発信力が低い」という課題を抱えた事業者さんの課題解決をするワークショップのときです。
まず、フィールドワークで本質的な課題は何か、顧客には何が求められているのかを顧客視点に立って考え、課題を特定。そして参加者でチームをつくり、どんなターゲットにどう刺さるブランドにしたいのか考えました。デザインのアプローチによって顧客に共感してもらう伝え方や見せ方、ビジネスを成功につなげるためのストーリーを考えることが得意だった私は、チームの中で自然とその役割となり、そこで自分の本領を発揮できたことが、自信につながりました。
ただ一方で、普段から UIUX を考える仕事をしている私以外の参加者、市役所職員や地域おこし協力隊、地域の事業者の多くが、デザイン思考に触れるのは初めてだったんです。そのときに、地方には、本質を捉えた商品の伝え方やサービスの作り方などが広まっていないことを実感し、いずれオイシックス・ラ・大地で学んだことを地域に還元できたらいいなと思うようになりました。
ありがたいことに、私は4日間のプログラムを終えたあと、「ふるさとデザインプロデューサー実践研修」に選抜され、2020 年の春あたりまで長野県の事業者さんが抱える課題を解決するプロジェクトに取り組むことになりました。こうした個人的な取り組みに対しても、会社が前向きに応援してくれるので、大変心強いです。
この機会を得られたのは、間違いなくオイシックス・ラ・大地での毎日の積み重ねがあったから。論理的思考や最先端のデザイン思考はもちろん、企画を形にする実行力が身についていたことも大きかったと思います。
これもオイシックス・ラ・大地の良さで、指示されて動くのではなく、自分で考えて実行できる文化が根付いているんですね。まずは考えてやってみて、検証する。入社当時から先輩にサポートしてもらいながら、裁量を持ってさまざまなプロジェクトを牽引してきた経験は、社会に生かされることを実感しました。
お客様同士がつながり、毎日の食事がもっと楽しみになるコミュニティを確立させたい
—— 阿部さんが仕事をする上で、大切にしている考えはありますか?
期待を超えることです。それはお客様だけでなく、会社や自分に対しても同じ。お客様の期待を超えるサービスを作りたいですし、そういうコミュニケーションを取りたい。そのために、頻繁にお会いしてお話を聞くことはもちろん、Twitter や Instagram に「#オイシックス」で投稿されている内容はかなりの頻度でチェックしています。
お客様に喜んでもらえることは何だろう、写真を投稿したくなった心理は何だろうと、あらゆる方向からお客様を理解して、期待値を超えられるサービスにしていきたいですね。
会社からも「Oisix としてお客様に喜んでもらえるような仕事は阿部に任せよう」と言われる機会を増やしたいですし、任された仕事は周囲からの期待を超える結果を出したい。自分に対しても、同じ場所にとどまっているのが苦手な性格なので、次々と新しい挑戦をしたい。すべてにおいて常にアップデートすることで、期待を超えたいと考えています。
—— 今後、Oisix でやりたいこと・実現させたいことを教えてください。
「Oisix 学べるキッチン」という、今まさに私がゼロイチで作っている、お客様同士・お客様と Oisix 社員同士のコミュニティを確立させることです。
現在、試験的にお客様と一緒に農園に行ってピザづくりをしたり、親子料理教室を開催したりしているのですが、このプロジェクトのきっかけとなったのは、お客様との会話でした。いろんな話を聞く中で、私や現状のサービスではどうしても解決できない悩みがいくつもあったんですね。たとえば、子育て真っ盛りの家庭や共働き家庭の食卓の悩み。
同じ悩みを持つ、もしくは持っていた方が、Oisix のお客様や弊社で働く社員の中にはたくさんいます。同じ悩みをもつ人同士がつながり、共感が生まれたら、そこからもっと楽しい食卓を作ることができるのではないか、というお客様と接点を持ってきた私だからこその強い仮説があります。
加えて、私たちは自信を持ってお届けしたい商品がたくさんあるのですが、それがお客様の普段のレパートリーにない商品の場合、なかなか選んでもらえないという課題もあります。直接ご紹介すると気に入っていただけることは多いけれど、Web 上でレコメンドをするだけではなかなか出会いにつながらない。
それを解決するためにもコミュニティ作りを起案し、私がオーナーとして、熱量をもった仲間と一緒にプロジェクトをつくっている最中です。
イベントを開催するにあたってこだわっているポイントは3つあり、1つ目は「お客様に喜んでもらえるのことしかやらない」こと。2つ目は「Oisix らしさを反映させること」こと。具体的には、Delicious(美味しさ)、Enjoyable(楽しさ)、Healthy(健康)、Easy(簡単)、Creadible(信頼)、Social(社会との関わり)です。そして3つ目は、「ロジカルさとデザイン思考を生かす」こと。
最近、社内からも「素敵なことをやっているね」「この生産者さんのところに行くイベントできないかな?」などと言われることが増えており、社内外にコミュニティの輪が広がっていけばいいなと思っています。お客様からも親子で農園にいく機会は少ないと好評を得ており、新たなニーズを発見できたことも嬉しかったですね。
目標は、今期のうちにお客様同士のコミュニティを確立させること。Oisix を使うことで、お客様が抱えている課題が少しでも解決できている状態を、お客様や社員と一緒につくっていきたい。そしてこの知見を武器にして、各地域にいる何らかの悩みを抱えている人が、自分の住む場所に自信を持てるように、地域の魅力を発掘しながら課題の解決をする「地域プロデューサー」としての側面も、個人的に確立させられたらいいなと思っています。